慣れ - 2018.08.15 Wed
調律は初めてでした。
購入して10年近く経つグランドピアノです。
最後の調律が3年は経つかというほど記憶も曖昧でした。

ピアノを診るとピッチは下がりタッチも重くなって非常に弾きにくい状態でした。
下がっているとは言っても全体的に綺麗に低いのでそこまで目立ちません。
また鍵盤が重いのもひどいところまでは行っていません。
この状態のピアノの「こんなもの」に慣れてしまわれていました。
なんとかしないと。
・ピアノのパフォーマンスの基準を上げる。
・基準を保つために一定間隔の定期メンテナンスを行う。
・基準を保つために温湿度環境を整える。
・他の良い状態のピアノを弾いて比べてみる。
・これらが当たり前として慣れる。
いろいろと作業を行ってメンテナンスのアドバイスを行なって帰りました。
普段使うものは基準を上げておかないといけません。
なぜなら基準からしか物を言えません。
基準からしか測れません。
基準からしか感性を磨けません。
後日嬉しいメールをいただきました。
ショパンコンクール2010 入賞者ガラ・コンサート - 2011.01.20 Thu
昨年でショパンは終わりと思いきや、そのショパンコンクールでの、入賞者のコンサートで、3時間というショパンづくしの内容でした。
ユリアンナ・アヴデーエワ(第1位 ロシア)コンチェルト
ルーカス・ゲニューシャス(第2位 ロシア/リトアニア)ソロ
インゴルフ・ヴンダー(第2位 オーストリア) コンチェルト
ダニール・トリフォノフ(第3位 ロシア) ソロ
フランソワ・デュモン(第5位 フランス)ソロ
一応皆さん同じピアノを弾いたのですが、それぞれ同じピアノとは思えない個性豊かな音が出ていました。
リハーサルも本番の曲より、アンコールの曲を練習していたりと、それぞれの思いが見えて面白いものでした。
さて、5人が同じピアノを弾くのですから、ピアノに対して注文はほとんどありません。
というかできないものです。
なので、終わった後の舞台袖で、感想をなんと言っていたか、ちょっとだけお伝えします。
鍵盤重いねー。 - 2010.09.22 Wed
リハーサル中に「このピアノ重いねー。」
こう言われました。
うむ、前回も言われたため、かなり意識して調整したのですが…。
他にどんな方法があるか、無い頭から絞り出しました。
しかし、「重い」という言葉のからくりがどうしてもわかりません。
鍵盤が重いのか、タッチが重いのか、音色が重いのか、はたまた雰囲気が重いのか。
ユンディ・リの要求 - 2010.04.17 Sat
今、日本をツアー中ですね。
今年はショパンイヤーなので、どこのホールもショパンの企画を立てています。
10年前に優勝した年に大阪にやって来られ、若干18歳。お父さんとお母さんが一緒について来られていました。それから何度か仕事をさせていただきましたが、まだまだ若いというのが前に出ていたように思います。
そして、10年が経ち貫禄も出て、その演奏が楽しみでした。
調律と彼の好みであろう調整を施したピアノを用意して待っていると、間もなくして来られました。
座って弾き出して、開口一番「重い、鍵盤をもっと軽くしてください。しばらく弾きますから後で調整してください。」
この状態で弾かれると結構慣れてしまうと思うのですが、1時間ほど弾いた後、「調整をお願いします。音色も透き通ったように開いた感じで!」
身振り手振りで伝えてくださいました。
30分ほどの作業した後、また弾き出しました。
「重さは直りましたが、音色は先ほどの方が良かったので、戻してください。」
と時計を見ると開場2分前!
さあどうする。
ピアノ弾き語録 Vol.7 ピアノから教えてもらった - 2008.11.25 Tue
今日伺ったのは100年前のベヒシュタインをお持ちのO様。
このピアノと出会って数年、「このピアノに教えられた」とおっしゃってくださいました。

ご主人がトロンボーン奏者、ご本人はピアニスト。
二つの地下の練習、レッスン室を壁を取り払って、一つの大きなお部屋にされ、音響、防音にこだわられた作りの中にベヒシュタインとトローンボーンが置かれています。
毎回伺って、この修理をしたベヒシュタインと会話しながらの作業です。
ピアノを見ていると、弾かれている人の普段が見えてきます。
どんな曲をどんな感じで弾かれているのか。
ご本人曰くこのピアノと出会って、よく音を聴きピアノを感じるようになったということと、その時代時代のピアノの良さが少しずつわかるようになったとのこと。
ピアノに教えてもらうということはこのことだと思いました。
環境づくりも大切で、その環境が基準となっていくのだと思います。
ピアノ弾き語録 Vol.6 線が細い! - 2008.11.24 Mon
大変な仕事でした。
コンサートの仕事でしたが、5年ぶりに伺ったホールとピアノ。
以前の状態を想像していたら、とんでもないことが待っていました。
この春にハンマーを交換したとのこと。
しかも、その状態が右から左へとポンと交換したような形で、その後の調整、整音などが何とも中途半端。
「今日は演奏会ができるだろうか?」という不安から始まりました。
でもピアニストはそのような状態を想像していないわけで、ちゃんと普通に弾ける状態でピアノが待っていると思っています。
限られた時間の中、一からの整音をやらざるをえませんでした。
なんとかリハーサルまで間に合わせ、リハーサルがはじまると、3分も経たないうちに「今日ハンマー削りましたか?」鍵盤のうえのハンマーのホコリをしっかりと払っていなくて、ざらついて注意を受けました。
しまった!基本的なことが、、、。
コンサート1部終了後戻ってこられ、開口一番「線が細い楽器ですね。」
短時間での作業の限界を感じつつ、何も返す言葉が無く、うなずいていました。
でも弾き手はそんな状態でも本番をしっかりとこなさなければ行けないのです。
大変な仕事だと思います。
最後の仕上げは弾き手なので、そこの責任は大変大きな物だと思います。
コンサート自身は無事終わったのですが、納得のいかない仕上げでの本番、未熟でした。
言葉の裏に隠れている意味の重さに、つぶされないよう次につなげなければ!
ピアノ弾き語録 Vol.5 鍵盤が渋い!? - 2008.10.11 Sat
久々のピアノ弾き語録です。
今日コンサートがあり、普段あまり見ていないホールでのピアノでした。
ピアニストはいつも関西に来られるときに担当させていただいている方ですが、数年させていただいている中、未だに要領がつかめないこと多々有りです。
リハーサルが始まり、今日のプログラムを淡々とこなして行かれる中、今日は何を聞かれるだろうか?何を感じてどのポイントで話が進むだろうか?など演奏を聴きながら緊張して、心の中で予行演習をしています。
開場10分前にリハが終わり、開口一番
「鍵盤が渋い!」
さてどうしようか???
開場時間も入れてあと40分。
調律もしなくては、、、
この鍵盤が渋いというのは、鍵盤の動きが敏感でないということでした。
特にppで弾くときに抵抗がありすぎてppが出ないということです。
つまり、鍵盤は上下運動をしていますが、上下運動だけではなく、微妙に左右にも振られています。
左右に振られすぎないようになっている構造として、鍵盤手前の下側に穴が空いてピンがささっています。
そのピンと鍵盤穴の壁との接触で抵抗があるということなのです。

(本番のピアノではありません。緑の丸いフェルとの真ん中のピンです。このような掃除をする時間は本番前の客入れのときにはできません。)
奏者は中音だけを弾くということはありません。
低音、高音をppで弾くとき腕の動きは円を描くように、自分の体から外側に手が伸びて行きます。
鍵盤の動きとしては上下に動くというより、横の力がかかりながら下がって行きます。
つまりピンと穴の接触が大きな摩擦としておこるということです。
この摩擦をなんとかしなくては。
なんとか作業を終え、調律をして本番を迎えました。
1曲目が終わって戻ってこられ「弾きやすいタッチになっていたよ!」
これで今日の渋い仕事は終わりました。
何もない? - 2008.07.10 Thu
コンサートの仕事では常にピアニストと調律師である程度のやり取りがあるものです。
昨日のコンサートの仕事はここ数年ご指名いただいているピアニストなのですが、最初の頃はこれでもかというほど、いろんな注文を言われ、なにをどうすれば良いのか試行錯誤ばかりでしたが、この何回かは何にもないのです。
何もない? 良いことか、悪いことか?
昔、先輩調律師に聞かされたことがありました。
ある有名なピアニストが地方にやってきて、その先輩が担当したのですが、細かくうるさいと有名なピアニストで、覚悟していたらそのときは全く何も注文が出なかったそうです。
先輩はホッとされ、満足げに家路につかれたということですが、それから数ヶ月後、友人からこのときのピアニストの話が出てたまげたそうです。
「○○ホールのピアノは大変だったよ。これ以上悪くされたら弾けないから、何も言わなかったけれど、、、」
つまりそのホールのピアノを見てその管理している調律師のレベルがわかるとのこと。
それで、指示をして作業をしてもらっても理解できなくて、これ以上弾きにくい状態にされたら本当に弾けなくなるから、今の状態に慣れて本番に持っていこう、ということだったとのこと。
先輩は大変ショックでしばらくは立ち直れなかったと言われていました。
いくら技術といえども最後は人間同士のコミュニケーションですから、何か反応があれば
次につながるのですが。
といろいろと言いながらでも、次の仕事もまだがんばらねば。
ピアノ弾き語録Vol.3 タイミング - 2008.05.25 Sun
岡山での仕事。
今回は大先輩の代役で、あるピアニストの仕事をさせていただきました。
代役というのは、先輩と全く同じにできないにしろそれに近い仕事はこなさないと行けない状況です。
推薦していただいたからこそ、生まれて来た仕事であって、失敗は許されません。
緊張です。
そして運の悪いことに悪条件が、、、
1時間半でそのピアニストの特徴のピアノに仕上げる
雨と湿気
朝一番での長距離移動(眠い)
しかし、やることをやらなければ!
時間があってじっくり仕上げるとピアノのまとまりが悪いタイプの私には、短時間でガッとまとめた方が良い結果が出るというタイプで、少しの望みを持っていました。
リハーサルが始まり始めに言われたこと。
「タイミングが早いです。ピアノの置き位置の変化で響きを聴いてそれを補えるかどうか、試してみましょう。」
この結果、移動して吉と出ました。
しかし、また、しばらく弾いて、
「う~ん、やはりタイミングをもう少し遅くしてください。」
弾いた感じと、音の出るタイミングのことなのですが、なかなか難しいご注文。
とにかく、本番まで後数十分です。
「やりすぎ!後0.5mm戻しましょう。」
そして本番。
熱い演奏。
終了!
握手を求めて来てくださいました。ほっ。
次につながると良いのですが。
人のタイミングを感じる、難しいです。
ピアノ弾き語録Vol.2 - 2008.05.16 Fri
以前あるピアニストのお仕事をさせていただいたとき、びっくりしたことがありました。
その方は、特にスタインウェイを良く弾かれるのですが、製造番号を見てその時代に作られた楽器の癖、音色、タッチなど特徴付けてしっかり記憶されています。
そこで質問され、
「製番が○○○○○○番台のピアノの音はどう思う?」
「、、、、、。」
どんなピアノだったかぱっと出てきません。
何と答えていいのやら、自分の思っていることが的はずれだったらどうしようか、などと思っているうちにピアノを弾きだされていました。
会話が成立しませんでした。
いろんなピアノを触られているため、もちろん調律師よりも触られているため太刀打ちできませんでした。
そして、
「ppとffは出るけれどmp~mfの間での変化が急激すぎる、もっとコントロールできるようにできるかな。」
本番直前の会話で時間が無く、作業後の劇的な変化ができた記憶はありませんでしたが、何とか無事に終えたような、、、。
ピアノに関するいろんなとらえ方をしておかなければいけないなと思った出来事でした。