スタインウェイ ニューヨークとハンブルクの違い 見た目編 - 2008.03.29 Sat
でもこれは正直一言ではなかなか語れません。
まず時代で大きく違いますし、どんどん変化しているので、どの時代を切り取って話すかでも変わってきます。
(注:現在の新しいものと異なるところがあります)
ニューヨークは角張っています。(ボストンピアノはニューヨークと同じ形)
ハンブルクは丸くなっています。
ニューヨーク製:折れ曲がります。
ハンブルク製:丸くなっているままです。
ニューヨーク製:4本。
ハンブルク製:2本。
ニューヨーク製:えぐれていて、2段。
ハンブルク製:シンプルな形で3段。
ニューヨーク製:前面に真鍮のプレートが取り付けてあります。
ハンブルク製:すべて木で作られています。(現在のものは底板が真鍮になっています)
ニューヨーク製:倒れ方が反対で、形も違います。
ハンブルク製:いつも見慣れている譜面台です。形もオーソドックスできれいです。
テレビでパッと見た瞬間の見分け方、わかりましたでしょうか。
(余談:教育テレビの子供番組で白のニューヨーク製を見かけます)
同じメーカーで文化の違い、国民の違いなどでずいぶんと変わるものです。
「オリジナル」と言う言葉のマジック - 2008.03.25 Tue
今回ピアノの企画が終わった後に、大反省会を行いました。
今までいろんなピアノを修理、調整してきてそれぞれの最高というものを引き出してきたつもりです。
しかし、今回また新たな発見、というか原点に帰らなければいけない、ということを思い知らされました。
それは、
オリジナル部品をどこまで残すか?
良い音を出すためにはそのオリジナル部品がどこまで必要か?
自分たちがオリジナルで良いのでは?
ピアノには付いているオリジナルの部品というものがあります。
年数が経ったピアノを修理した際、もしくは調整した際、その部品の状態は、今まで使われていた環境で大きく左右されています。
つまり、フェルト類などが
1.湿気た状態
2.かなり弾き込まれて消耗している状態
などがあります。
そのフェルト、特に弦を打つハンマーの状態を見極めるのは非常に難しいです。
1.は
・大きさはたっぷりとあるのに湿気でぶよぶよになっていて、発音が悪い
・音が出にくい
・音が丸すぎる
2.は
・しっかりした音は出ますが、うるさすぎて割れている
・ハンマーの消耗で肉厚が無いため、音にボリュームが無い
・音質が平べったい感じになっている
どこまでオリジナル部品を残し、状態よく音色を作るかが技術者の腕にかかってきます。
また、特に日本では部品がオリジナルでないとそのブランドと認めない、ということを強く言われている傾向にあると思います。
「オリジナル」神話ということになるでしょうか。
極端な例かも知れませんが、
4年ほど前にアメリカに行った時、スタインウェイのあるニューヨークで、修理工房の見学に行きました。
そこでは乾燥地域アメリカ特有の木材割れの修理が多数有り、特に、響板、ピン板など総取り替えなどは日常茶飯事ということでした。
でも、響板をスタインウェイから買おうとすると、良い響板は工場で使われるために、選ばれなかった悪いものしか送ってこないとのことで、しっかり良い材質で作ってくれる響板製造会社から購入するということでした。
ということは、スタインウェイのオリジナル響板ではないということです。
スタインウェイ社の響板の音はしないということですが、平気でスタインウェイとして販売されています。
また、お客様もそれを承知で購入しています。
今回オリジナルハンマーで1年以上様子を見てきたピアノがありました。
修理したては部品がどうしても落ち着かないため、そのピアノ本来の最高のものが出ていないということが多々あります。
時間をかけて落ち着かせるということで、鳴ってくる、音の厚みが出てくるまで待ちましたが、結果出し切れませんでした。
最初の判断を誤ってしまいました。
やはり潤いのある、ボリュームのあるハンマーに取り替えておくべきでした。
ピアノがそう語ってくれました。
と、うたまくらチームで判断してもう一度楽器の最高を出すための作業を行います!
自分たちのオリジナルで勝負です!
時代を語るピアノの響きコンサート - 2008.03.23 Sun
今日はピアノコンサートがうたまくらピアノ工房と茶論で行われました。
このコンサートは年3回行っていまして、そのときにある楽器を使い、その時代背景を探りながら進めていきます。
楽器たちの年齢もさまざまで新品から80歳~120歳のさまざまなピアノがあり、オーバーホールで元気によみがえっています。
全部で10台の鍵盤楽器の調整と調律を準備してのコンサートでした。チェンバロ、クラヴィコード、フォルテピアノ、そしてピアノたち。
新品と年代ものの違い、各メーカーの知られざるつながり、ピアノの生い立ちを語るための前身の鍵盤楽器の説明、これらの楽器を生かした選曲での演奏。
毎回思うのですが、このコンサートを聴きに遠くからお越しくださる方のピアノに対する思いがよく伝わってきます。
その方々に他ではない取り組み、でも本質ははずしてはいけないことを伝えることは難しいものです。
でも次の世代にしっかり伝えていかないといけないと思っています。
明日もこのコンサートがあり、また違う方々、初めての方々のお顔を見られることを楽しみに最後の準備をします!
時代を語るピアノの響きコンサート
http://www.utamakura.co.jp/piano/jidai/jidai2.html
ちょっと一工夫 お部屋の響き - 2008.03.18 Tue
早朝に家を出ましたが、正直寒い!
大阪とは全然違いました。
そして、打撃音までもカーン、カーンとエコーのように反射しています。
とにかく対面にある壁同士で反射してしまうので、どちらか一方の壁に音を吸収させるか、乱反射させるものを作ると、ワンワンと響きすぎるものがすっきりすると思い、前回伺ったときにアドバイスさせていただきました。
知りあいの画家にピアノの蓋を開けたときにもきれいに見えるようにと、その人のセンスでやってくださったとのこと。
吸収させすぎず、お部屋全体の鳴りを保ちつつ、変な響きだけがカットされました。
また、額縁表面のガラス、板、紙、布いろんな材質を使われています。
なるほど、勉強になりました。
絵に負けないようにきれいに調整します!
応援したくなる広島の先生とボストン - 2008.03.15 Sat
このボストンを選ばれたということから、しっかりとしたビジョンを持たれてレッスンされています。
その理由もしっかりされていて、グレード、発表会の繰り返しで、毎日を「こなしている」という感覚で、「育てている」ということを感じられなかったとのことでした。
この意見は妙に納得してしまいました。
というより、H様の意識が高いところからの感性だと思いました。
そして,その感性がいろんな人に繋がっている不思議さも感じました。
このピアノはもう良く知られたピアノになっていますが、最初作られた頃にはいろんなことを言われていました。
あのスタインウェイがカワイに作らせているのですから、とんでもない話まで飛び交ったものでした。
・・・品質的にはスタインウェイのちょっと下だけ・・・
カワイ系列での販売からスタインウェイ特約店での販売に変わったのも時代の変化でしょうか。
ここが大きくカワイとの違いでしょうか。
しかし,この木の良さを活かすも殺すも調整次第だと思います。
日本の技術で素晴らしいピアノを作っているので,それをしっかりとした形で表現できるかどうかです。
年一回伺ってのお話も楽しみになっています。
今は結果が出ていないからこそ,なにかお助けマンで応援でできないかと思っています。
とりあえずは伺ってピアノをしっかりと見させていただきます!
自己満足の怖さ - 2008.03.13 Thu
やっと、グロトリアン-シュタインヴェッヒの修理が終わりました。
そこで完成したものを今度の楽器企画に出すために、最終確認も含めて歌枕に弾いてもらいました。
まず、返ってきた言葉が「これだったら普通。楽器から湧き出るものが無い!」
正直ショックでした。
「普通」という言葉が一番こたえます。
ここは普通ではない、と思っています。
でも冷静になって考えてみると、
1.最初のひどい状態からここまで復活させたという、自己満足
2.とにかくある程度鳴るようにした整音技術としての、自己満足
3.外観がきれいになったことでの、ピアノ全部がきれいになったという、自己満足、錯覚
4.忙しい毎日の中で時間を作って、一生懸命やったという、自己満足
いつもこういう風に歌枕の一言で、最終段階でハッと振り返らさせてもらえるのです。
1.よく考えてみると、アクションの動きや鍵盤がスムーズに動くことは当たり前。今ひとつ機敏でない。
2.よく考えてみると、グロトリアンの特徴である、柔らかくても透き通る音が出ていない。
3.よく考えてみると、きれいになっても、34年は経っているピアノ。中の状態を改めて冷静に見ると微調整が必要なところがいっぱい。
4.忙しさに関係なく、自分の中での基準をクリヤーしていれば満足していただけたものを、忙しさということで出来具合を差し引いていました。
技術者、職人が陥りやすいこと、自己満足。
もしくは妥協。
この助言をもらえることはどれだけ大切なことかが、いつも身にしみています。
言われなくても早くできるようにならねば。
再度言われたことの確認と、もう一度このピアノから光るものを発揮できるかを考え、再度作業したら、どんどん良くなる法華の太鼓。(これも自己満足?)
とにかく今の段階での最良を出しました。
展示販売楽器でチェックして、
http://www.utamakura.co.jp/piano/tenji/tenjigaki.html
是非弾きに来てください。
お役に立ちました? - 2008.03.08 Sat
今日は朝9時から夜の10時までの長丁場のコンサートでした。
コンサートの内容は、数年前脳梗塞から右半身が不自由になり、そこから奇跡の復活をとげ今は左手だけでコンサート活動をされているピアニストと、ヴァイオリニストの息子さん、そしてその仲間たちがフィンランドの音楽をいろんな形で表現するというものでした。
もちろんメインの曲はフィンランディア。
このフィンランディアがいろんな編曲で形を変え、楽器を変え演奏される場面が何カ所かあり大変面白いものでした。
そして、フィンランド・タンゴ。
今流行っているのだそうです。
そして、此のコンサートを支えていらっしゃるのがボランティアの方々。
調律と、なにかお手伝いがあればやりますと言っていたので、行ってみてびっくり。
ステージマネージャーのような仕事が待っていたのです。
演奏者を時間になったら呼びにいき、
ステージへのドアの開け閉め、
編成により変わる、椅子の数と位置、そしてピアノの移動。
これらのことを私ともう一人の男性と行うことになり、なぜか、ファイトがわいてきたのでした。
もちろん本職の仕事の休憩中の調律の手直し、ピアノ磨きもしっかりとやりました。
演奏者が、気持よくステージに出ていただくためには何が必要か。
進行をスムーズに行うためには何に気を付けるか。
普通、分野が違うと言うことでピアノ以外は触らないことが多いこの職業ですが、今日はそういうことは言ってられません。
今まで20数年見てきたこと、やってきたことが発揮できました。
いろんなハプニングはありましたが、コンサートのアットホームな雰囲気に助けられ、落ち込むことも無く、ピアノ技術で褒めらること以上に、コンサート全体が無事終わったことが何よりのうれしさでした。
一つのコンサートと言うのは、本当にいろんな人から支えられているものです。
今日のこのコンサートは、演奏者の皆さんがそのことをわかってられる方々でした。
最後にピアニストから握手で「今日はありがとうございました。お疲れさまでした。」と、何よりのお声がけをしてくださいました。
体はヘトヘトでしたが、外は寒いのに暖かい気持で家に帰れました。
うれしかったこと 企画の成果 - 2008.03.06 Thu
ピアノ工房で毎月独自の企画を考えて行っています。
そしてそこにたびたび来ていただいていたK様が、今度は私の仕事を見学したいと言われました。
また、実技の実習をして欲しいと。
このK様は普段はいろんなところでクラシックではないピアニストとして活躍されています。
でも、場所でいろんな状況のピアノがあるわけで、目をつむって弾かなければいけないことも多々あるとのこと。
また、ご自分でいろいろ作ること、触ることもお好きということでピアノの内部、調整、調律に非常に興味を持っておいでです。
「是非、ピアノのことをもっとより知りたいので、いろいろと教えてください。」
と言われました。
もちろん快くお受けして、
「私の作業でよければどうぞ見学してください。また、実習がお望みならお教えいたします。」
企画を続けてきて、こちらから疑問を投げかけて、それに対して説明実演するということを行ってきましたが、そこから次の段階のお客様からの自発的な行動は非常にうれしいものです。
現場を変えよう、変えたいという声が出ない限り、こちら側だけの活動では限界があります。
K様はいろんなピアノを弾かれているからこその行動かも知れませんが、逆にこれが現場の現状、声だと思います。
もっと意識を高く持っていただけるための何かをこれからも考えて行きたいと思います。
この4月からの企画は少し視点を変えて、例えば、
1.演奏者向けの簡単な技術指導。でもポイントはしっかり押さえます。
2.指導者が生徒さんに向けてピアノの説明の仕方。
3.古楽器(聞きやすくて、操作しやすい)を使っての、調律体験。
4.飛び入り見学、技術指導も大歓迎。
などなど、いろいろと考えてみていますが、しっかりとまとめてまたご案内したいと思います。
こういうK様の行動が反応として帰ってくると、こちら側とすればどんなことが疑問なのか、知りたいのかがわかるので目が覚めた感じでした。
また、お待ちしています!
音作り 原点に帰って - 2008.03.01 Sat
決して技術的なことを言いたいのではありません。
ピアノ調律師として行う仕事は、ピアノ作りの中で言えばアフターフォローに過ぎません。
製作段階で音色の要素の大部分が作られていくので、最後に残されたお客様の家で見る仕事はそう多くはありません。
でも考え方次第で、音作りにどこまでかかわるかは、意識の持ちようだと思います。
ヨーロッパ時代に体感した音
1.街の音 石作りの建物、石畳があり、車のクラクションの良く響くこと。そして窓越しに気持よく歌を歌うおばさん。
2.家の中の音 石作りの部屋で、何もかもが響く環境。床も石なので水拭き。靴の音。
3.空気の乾燥 これによって良く音が通ります。鳥などの声がよく聞こえます。
こういう中にピアノの音がありました。
それはそれは甘い音で、輪郭もしっかりしていて、芯もある。
弾き方でいろんな変化がつけられる音色のピアノ。
反面、嫌な音が出るとすぐに注文が来ます、「もっと透き通った音にして!」
これはメーカー問わずでしたが、こういう普段の生活の中から生まれてくる音というのがあります。
ヨーロッパがすべてではないと思っていますが、多かれ少なかれ技術力だけでは語れない部分があるのでないかと感じています。
あるメーカー(ドイツ)の整音する部屋は、よくある残響が少なく音源がよく聞き取れる部屋、ではなくて、一般家庭の作りに似たくつろいだ空間でした。
そこでジャズを弾き、クラシックを弾きながらコーヒーを飲みながら音を作っていきました。
生活の中にとけ込んでいるものを感じてこそ、そこでの音作りができるのではないかと思っています。
ヨーロッパなどでは音作りの歴史がありますが、日本ではまだまだ提案型でできるのではないでしょうか。
昔で言う日本家屋はすきま風が多い、というのは今はあまり無いと思います。
日本の環境も大変良くなってきています。
でも弾いている人も、調律、調整している人も ”いい音を作る” に関しての意識が薄いように感じます。
世界中のすべてのメーカーを聴く、知るということは不可能ですが、意識を持てばピアノ以外からもいろんな要素を吸収できるのではないかと思います。
いかがでしょうか。