硬化剤と軟化剤 - 2009.07.02 Thu
ここ数日の仕事で、硬化剤を必要とするピアノと、軟化剤が塗られたピアノに出会いました。
これらは、整音という作業に用います。
硬化剤:
弦を叩くハンマーフェルトに硬化剤を塗って、フェルトをより硬くし、音量を増し、硬質な音色を作ります。
通常は硬化剤を塗らなくても、圧力をかけてフェルトを木に巻いてハンマーを作っています。
軟化剤:
ハンマーフェルトに軟化剤を塗って硬いフェルトを柔らかくして、音色をまろやかにします。
ただし、これはかなり古くなったピアノに用います。
それはフェルトが硬化していったからです。
最初から硬かったフェルトではありません。
この両極端の共通点は薬品!
今のピアノ、調律師の現状をご報告いたします。
これから書くことは、あくまでも私個人の主観的なところですので、業界全てがそうなっているとは限りません。
先日あるコンサートで、ピアノコンチェルトの仕事がありました。
何度も使われているピアノ、何度となく調律をしているピアノなので、よく状況は把握しているつもりでした。
そのピアニストとも何度か仕事をさせていただき、ある程度の癖もわかっているつもりでした。
その状況で、リハーサル前の調律をして、いつも言われそうな指示のところを調整しておきました。
まあ、これでバッチリだろう、何か言われるとしても次の技術の引き出しを用意しておけばそれを試すことができる、と思っていました。
リハーサル前の練習をされるので、ピアニストが来られ弾きだしました。
30分ほど弾いた後、客席で聴いていた私を捜しています。
「荒木さん、ちょっと!」
さあ、緊張の一瞬です。
なにを言われるか?
「鍵盤が重い、音が出ない、もっと音量が欲しいのだけど!」
う~む。
どうしたものか。
このパターンでの引き出しは用意していませんでした。
とにかくピアノの現状を把握して、なんとかアクションの整調でクリアーできるか考えました。
重い?出ない?パワー?
今回のプログラムでこの要求が出たのですが、曲目が違えば今のままで大丈夫ということもあるとのお言葉を聞いたので、よけいに悩んでしまいました。
もちろん、今日のために仕上げるのですが、ピアノはこれからも使い続けるわけで、後のことも考えた上での作業方法を選ばなくてはいけません。
なんとか、作業を終え、リハーサルが始まりました。
客席で聞いていた私は、自己満足か、「なかなか、いいのでは!」と聴いていました。
でも、いつもより、必死で弾いているようにも見えるなあ。
リハーサルが終わると呼ばれました。
「アクションの整調では限界がありますね、まだまだ重いです。音が伸びない、パワーが足りない。」
結局のところあまり直っていないとのこと。
これはショックでした。
それを察したピアニストは最終手段に出ました。
「硬化剤持ってる?」
これは私の一番嫌いな方法です。
なるべくなら薬品を使いたくない、それは速乾性があると言いながら、時間をかけて変化もしていくので、後々大変なことになってしまいます。
やはり不自然!
天然のフェルトのままが良い!!!
「硬化剤でなんとかして。」と言い残して楽屋に消えていかれました。
さあ大変開場まで45分。
私なりの最終手段の一つ手前の方法で整音を行い、これに賭けました。
時間的に確認も後一回のみだからです。
でも手応えを感じていました。
多分いける。
開場10分前、ピアニストをお呼びして弾いていただきました。
「良いじゃない!硬化剤塗ったの?」
私は首を大きく横に振って「いいえ、他のやり方で行いました。」
「でも、これでなんとか本番いけるね!」
45分の本番が終わって戻ってこられると、
「良く鳴っていたよ、弾きやすかったよ。」
よかった~、間違っていなかった~。
これはあくまでも一つの例です。
また、硬化剤を完全否定しているわけではありません。
私も場合によっては使用するときもあります。
でも、なんとか使わずに他のダメージ無い方法で、ピアノに長生きしてもらいたい、この思いで取り組んでいます。
コンサートでも一般家庭でも同じです。
ちょっと長くなりましたので、軟化剤のお話は次回報告します。
お楽しみに!
これらは、整音という作業に用います。
硬化剤:
弦を叩くハンマーフェルトに硬化剤を塗って、フェルトをより硬くし、音量を増し、硬質な音色を作ります。
通常は硬化剤を塗らなくても、圧力をかけてフェルトを木に巻いてハンマーを作っています。
軟化剤:
ハンマーフェルトに軟化剤を塗って硬いフェルトを柔らかくして、音色をまろやかにします。
ただし、これはかなり古くなったピアノに用います。
それはフェルトが硬化していったからです。
最初から硬かったフェルトではありません。
この両極端の共通点は薬品!
今のピアノ、調律師の現状をご報告いたします。
これから書くことは、あくまでも私個人の主観的なところですので、業界全てがそうなっているとは限りません。
先日あるコンサートで、ピアノコンチェルトの仕事がありました。
何度も使われているピアノ、何度となく調律をしているピアノなので、よく状況は把握しているつもりでした。
そのピアニストとも何度か仕事をさせていただき、ある程度の癖もわかっているつもりでした。
その状況で、リハーサル前の調律をして、いつも言われそうな指示のところを調整しておきました。
まあ、これでバッチリだろう、何か言われるとしても次の技術の引き出しを用意しておけばそれを試すことができる、と思っていました。
リハーサル前の練習をされるので、ピアニストが来られ弾きだしました。
30分ほど弾いた後、客席で聴いていた私を捜しています。
「荒木さん、ちょっと!」
さあ、緊張の一瞬です。
なにを言われるか?
「鍵盤が重い、音が出ない、もっと音量が欲しいのだけど!」
う~む。
どうしたものか。
このパターンでの引き出しは用意していませんでした。
とにかくピアノの現状を把握して、なんとかアクションの整調でクリアーできるか考えました。
重い?出ない?パワー?
今回のプログラムでこの要求が出たのですが、曲目が違えば今のままで大丈夫ということもあるとのお言葉を聞いたので、よけいに悩んでしまいました。
もちろん、今日のために仕上げるのですが、ピアノはこれからも使い続けるわけで、後のことも考えた上での作業方法を選ばなくてはいけません。
なんとか、作業を終え、リハーサルが始まりました。
客席で聞いていた私は、自己満足か、「なかなか、いいのでは!」と聴いていました。
でも、いつもより、必死で弾いているようにも見えるなあ。
リハーサルが終わると呼ばれました。
「アクションの整調では限界がありますね、まだまだ重いです。音が伸びない、パワーが足りない。」
結局のところあまり直っていないとのこと。
これはショックでした。
それを察したピアニストは最終手段に出ました。
「硬化剤持ってる?」
これは私の一番嫌いな方法です。
なるべくなら薬品を使いたくない、それは速乾性があると言いながら、時間をかけて変化もしていくので、後々大変なことになってしまいます。
やはり不自然!
天然のフェルトのままが良い!!!
「硬化剤でなんとかして。」と言い残して楽屋に消えていかれました。
さあ大変開場まで45分。
私なりの最終手段の一つ手前の方法で整音を行い、これに賭けました。
時間的に確認も後一回のみだからです。
でも手応えを感じていました。
多分いける。
開場10分前、ピアニストをお呼びして弾いていただきました。
「良いじゃない!硬化剤塗ったの?」
私は首を大きく横に振って「いいえ、他のやり方で行いました。」
「でも、これでなんとか本番いけるね!」
45分の本番が終わって戻ってこられると、
「良く鳴っていたよ、弾きやすかったよ。」
よかった~、間違っていなかった~。
これはあくまでも一つの例です。
また、硬化剤を完全否定しているわけではありません。
私も場合によっては使用するときもあります。
でも、なんとか使わずに他のダメージ無い方法で、ピアノに長生きしてもらいたい、この思いで取り組んでいます。
コンサートでも一般家庭でも同じです。
ちょっと長くなりましたので、軟化剤のお話は次回報告します。
お楽しみに!
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Re: 最終手段の一つ手前の方法
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聞いてきてくださる方だけにご報告します。
読む人が読めばわかるのですが。
ただし、コテには工夫がしてあり、弦溝のところのみピンポイントでできるように細工しています。
おまけはガスのコテだったので、そのガスが抜けていて使えず、真っ青になってしまいましたが、残り30分、運も味方につけ、ガスを持っている方を見つけ切り抜けました。