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硬化剤と軟化剤 Vol.2 - 2009.07.05 Sun

「軟化剤を塗られました。」
お客様からあまり聞きなれない言葉でした。
軟化剤?どんな状況のピアノに使うの?
使用した事の無い私にとっては、未知の領域でした。

依頼されたお客様は、YAMAHA C1をお持ちで、購入されたときから、音が硬いと感じていたそうです。
最後の調律のときに、その時の調律師に話すと、整音をしましょう、と言う事になったそうです。
そして、音が硬い中音域に軟化剤を塗って針を刺して、1時間ほどの作業で終わったそうです。

その結果は、、、





最近の新しいヤマハで、音が硬いというのは珍しいかも知れません。
どちらかと言うとモコモコで、音の輪郭がはっきりしていないものが多いです。
ハンマーの個体差はあるでしょうから、みな同じ整音をしていたら大変です。
そこで現状を見てどういう整音を施すかは技術者の、選択になってきます。

お客様からは「とにかく音色がバラバラで、思うように音が出ない、なんとか直してください!そろえてください!」
懇願されるように訴えられました。

ピアノの音を聴いての印象は
1.鳴らない。
2.鳴り過ぎ。
つまり、ソフトペダルを踏んでいるかのような音もあれば、木で叩いているような音もあって、バラバラなわけです。


そもそも、軟化剤が必要かどうかの判断がわかりませんでした。
塗った後はフェルトがふやけるので、そのふやけた部分を次の日にきれいに削り落とさなければなりません。
もちろんそんなことは全くされておらず、ふやけたモコモコのハンマーで叩いていました。
塗った1日後はもっとふやけたはずです。
しかも新品のハンマーに塗ったというのもわかりません。
いろんな工場に行きましたが、軟化剤を使っているところはどこにもありませんでした。



まず、ファイリング ハンマーを削ってふやけた部分を取り除きましょう。
音を確認して、必要があれば針で、音色をそろえましょう。



結果:すごくきれいな輪郭のある音色が浮かび上がってきました。
そして、全体に硬くなったので、あらためて針刺しを行い、お部屋に合った音量にし、音色をそろえていきました。
きれいに3本の弦が同時にハンマーの頭に当たるように、削って細工して。

これにかかった時間は4時間。
後の1時間はお客様とのやり取りの中で、整音を行っていきました。

このお客様のピアノに必要だったことは、ハンマーの硬さに合った針刺しだと思います。
それが足りないために、間違って軟化剤を塗られ、バラバラになってしましました。
でも、改めて感心したのはヤマハでも基礎の整音をしっかり施したピアノは、きれいな音が出る、ということです。
やはり製造技術力はトップクラスです。
(後はどれだけ人間の手で仕上げるかでしょうか)


改めて、技術者の一つの判断が間違った方向へ行ってしまう怖さと、それに対してその場では何も言えないお客様の立場を思うと、責任が重い仕事ということを常に意識して行わなければいけないと感じました。

最後にお客様の喜んでくださった顔を見と、全てが報われた気持ちになります。

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Author:arakipiano
38年ピアノ技術者として世界中のピアノを見てきました。
ピアノがピアノだけで終わらない、人とのかかわりの中で、心に残るいろんな出会いをご紹介していきたいと思います。
よろしくお願いします。

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